Defiled なにをみていたのか

Defiledを見てきました。根拠なしの思い込みで侮っていたのですが、予想以上の面白さで菓子折りを持って謝りに行きたいです。どういう話かと考えるたびにわからなくなる。とらえていない。そのとらえどころのなさがDefiledの面白さでしょうね。

戸塚祥太演じるハリーを理解できなかった。その理由が1回目に観劇した時にはわからず、2回目にはハリーに肩入れできるような見方をできるかなと期待したのですが、やはりできなかった。ハリーが暴力的だった。肉体的な暴力ではなく、精神的な暴力。自分の命を投げ出してまで守ろうとする主張があること、その主張を受け入れられないから全てを壊して自分も死ぬという思考が乱暴だった。

開演すると音が流れてくるのですが、不穏な音と音楽は舞台に対する期待や緊張感を上げて背筋が伸びます。演者が出てくる前からこの舞台は面白いという予感がしてます。たまらない。前戯だけでもうめろめろ。舞台を見ててこんなことあったかな。
ハリーは頭が良くて、ブライアンは賢いタイプの人間だった。頭が良いというのは勉強ができるという意味で、賢いは物事の判断が適切という意味。賢かったり要領が良い方が社会では生きやすく、頭の良さはあまり重要ではないと考えています。ハリーは思い通りにならないことばかりの社会では生き辛そうだった。現に彼の言葉から出るのは自分の思い通りにならない経験談ばかりだった。ブライアンはハリーのことを知らないと言うが、追い詰める時の言葉の刃は鋭い。正体のわからない思考を暴くことで、ハリーがしようしていることの価値を問いかけていた。ハリーにわからせるというよりハリーが自分で気付くように仕向けているようだった。ブライアンである勝村さんは高い声で早口の時もあれば低くゆっくりとした口調で叱責する。駆け引きの際には声に緩急をつけてしていた。ハリーである戸塚くんは終始焦っているように感じた。声は基本高い。得意分野になるとより高く早口だった。穏やかな時は少ない。理解されない苦しさや理解されなくてもいいという思いが高い声に出ていたようだった。表情も笑みはない。

ハリーは蔑ろにされたことに憤りを感じていた。過去のことも忘れずに根に持つ。飼いたいと希望する犬種を否定する父親、論文を書いてあげたのに婚約破棄をした元婚約者、目録の重要性をわからない上司。どの出来事も自分は悪くない正しくないのは相手だとハリーは主張する。相手を理解してくれなかった人として向き合おうとしてなかった。それは蔑ろにされたことを自分も蔑ろにしているようだ。自分が正しいという考えに疑問を持たなかったし、変だと思った時も相談できる人が近くにいなかったのだろう。蔑ろにする理由をハリーは想像をして受け入れた振りをして問題のない日常を過ごしてきたのが、図書カード目録の存続の主張によって全てを失ったことが事件の発端だろう。婚約破棄をされても仕事があった、今まで仕事で主張をしてきても解雇されなかった、だが今回の主張によって解雇されて職はない恋人はいない。心の拠り所がなくなったことで自分は正しくないかもしれないと考えが揺らいだのだろう。主張の正当性を証明するために事件を起こしたように思えます。
自分は正しいというハリーの考え(戒律)を守るために、目録の存続を建前にしたのではないだろうか。目録はどうでもよくて*1守るべきは信じている自分。戒律順守や唯一であること*2の大切さは幼い頃から宗教を重んじている環境に育ったからではないだろうか。ユダヤ教と無宗教の半々と言ってたのは都合のいい部分のみユダヤ教の教えを信じているのから*3。ハリーは自分という神を信仰していた。だが、考えの揺らぎが現れたことで自分が正しいのか間違っているのかを判断する人を求めていた。ブライアンとの会話を拒否しなかったり、提案を受け入れそうになっている姿は迷っているようだった。だけど、結局はブライアンの説得を振り切り、自分を信じた。ハリーはやり遂げるという自分が決めたことが重要だった。

ハリーとブライアンの攻防だと考えていたのですが、ハリーが自分と戦っているだけでブライアンはハリーを生かす(自らの思考で自爆しないように)手助けをしてたのかなと思います。変化しないものはない、自分だって例外ではない。問題のない日常にするために変化を受け入れて順応していくのが生きやすい場合もあることをハリーは認められなかった。ハリーを救えるのはハリーしかいない。


ブライアン寄りの考えをしていたのですが、ハリーの話なのではないかと思い小難しくまとめました。

*1:登場時には目録棚を靴を脱いで上がっていたが、激昂時に靴を履いたまま棚に上がっていた

*2:ユダヤ教唯一神ヤハウェを信仰している

*3:ユダヤ教の教えの教育の大切さには感謝し、父親の重要性にはうんざりしてたのだろう